成蹊大学経済学部『社会理解実践講義』受講の皆さんへ(その3)考えてみよう;なぜ不正をするのか

 5月17日 4時限目 『社会理解実践講義』受講予定の皆さんへ
 
 投稿のアップが遅くなり申し訳ありません。来週の水曜日になりますが、講義の内容の一部に、“なぜ人は不正をするのか”ということについて一緒に考えることを予定しています。公認会計士は常にこの「不正」という問題と向き合っています。
 皆さんがこれから社会にでてキャリアを積んでいく上で、また私が本講義で伝えたいメッセージの趣旨を知るうえで参考になるのではと考えています。「不正」は法律罰や条例違反に問われるもの会社内での評価上のペナルティーを科されるもの責任を取らされるものから、(不謹慎と思われるかもしれませんが、実は人間を理解する上で深いのですが)笑って済まされてしまうものまで様々な不正があります。「不正」とは何か、人はなぜ「不正なことをする」のか、といったこともせっかくの機会ですので一緒に考えてみましょう。皆さんも、そして私も「不正」をしてしまったことがあるはずです。社会に出ても気をつけないと「不正」の罠はそこら中にあります。下手をすると人生を棒に振ることもあります。

 さあ、いま、考えておいて損はありませんよ!

 具体的な解説は講義でいたしますが、事前に読んでおいていただけますとより興味深く話を聞けると思います。講義後にあらためてお読みいただくことでも構いません。(講義後に追加のブログをアップします。)

 (黄色マーカーしているところは私が注目してほしいと考えている箇所です。青字で少しコメントをしていますので参考にして考えてみてください。)

 ひとつめは、タイトルからして問題なく「不正」のようですが、どの部分が「不正」で、なぜこのような「不正」をしてしまったのかということを考えてみてください。私たちが「不正」の罠におちやすい典型例です。公認会計士はこのタイプの不正ともよく対峙することになります。

 (朝日新聞デジタル版 2017年4月25日)
 『商工中金の不正融資414億円 本部も隠蔽関与』

 政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)が、国の制度融資で不正な貸し付けを行った問題で、35支店99人が関与し、計約414億円で貸し付けたことが25日明らかになった。職員はノルマに追われ、実績を上げるため取引先の書類を改ざんして融資していた。一部は以前に本部が把握しながら、隠蔽されたこともわかった。

 不正は昨年10月に発覚し、第三者委員会(委員長=国広正弁護士)が調査結果を25日公表した。

 経営悪化企業へ国が行う「危機対応業務」の低利融資などを巡り、窓口となる商工中金が不正を行っていた。経営がそれほど悪化しておらず、制度が使えない取引先にも低利で貸して実績を上げるため、職員が書類を改ざんしていた。制度を使えるように、取引先の業績が悪いように見せかけたり、従業員が多いように偽ったりしていた。

 全国92支店のうち、35支店で99人が関与した。不正な融資は760件、約414億円分で、実際の制度の適用外だったのは348件、約198億円分だった。本来国から受けられない利子補給額は約1億3千万円だった。第三者委の調査は、同制度で融資した全22.1万件のうち、不正の疑いがある案件を中心に2.8万件を調べた。残る融資も今後調査し、さらに不正が見つかる可能性がある。

 不正があった支店は、疑いがあるものも含めると、全国の半数近い43支店にのぼる。制度融資による低利貸し出しを伸ばすため、本部が支店に事実上のノルマとして目標を課し、職員の評価対象にもしていた(筆者注、評価対象にしたからこそ組織的な不正になった側面もある?)。このため、支店では融資獲得のために書類の改ざんが広がった。

 第三者委は調査報告書で、職員の「不正に対する規範意識が極めて希薄」(筆者注、最初は不正という意識があったが、そのうち皆がやっているから、という空気がまん延したのでは?)とし、上司も「見て見ぬふりをしていた可能性が高い」(筆者注、部下が貸付けを増やせば自分の評価もあがるからという棚ぼたのスケベ根性や、また自分が書類の改ざんを行っているわけではないからという事なかれ主義はなかったか?)と指摘。佐藤隆久執行役員は「一般的には詐欺罪などにあたるとの意見もあるが、犯罪の成否は慎重でないといけない」と話した。

 記者会見した商工中金の安達健祐社長(元経済産業事務次官)は「現場に任せていて、不正リスクを管理できていなかった」と謝罪した。安達社長の月額報酬を2か月間、30%カットするほか、元社長の杉山秀二氏(同)、関哲夫氏にも同等額の返納を求める。他の役員や元役員も10~30%の月額報酬カットなどを行う。

 国から不正に受けた利子補給は返還し、制度の適用外の融資は通常の融資に切り替える。
 
 不正、早くから把握

 問題は支店での不正にとどまらない。第三者委の調査では、商工中金の本部が早くから不正を把握したのに、隠蔽していたことも明らかになった。

 (筆者注、この記事にはまだ続きがありますが、省略します。内容的に上級編になりますので、また次の機会に。

 (注)危機対応業務とは、災害や景気悪化で業績が悪くなった企業向けの国の制度融資。商工中金などが窓口となって低利で貸し出す。国は利子を補給し、返済が滞った時の損失を補償する。2008年の制度開始から商工中金の融資実績は約22万1600件、約12兆4300億円。

 

 ふたつめは、現在時点で誰が不正を行っているということではないかもしれませんが、会計上の不正を考える上でとても参考になります。皆さんがこれから世の中の海千山千のビジネスマンとなるうえで役に立つと思います。

 (朝日新聞デジタル版 2017年5月5日)
 『土地塩漬け、公金6000億円投入 公社の借金膨張、133自治体が起債』
 

自治体に代わって事業用地などを買い集める全国の「土地開発公社」が抱える借金の処理に、特別に認められた地方債(ローン)で6千億円超の公金が投入されることが分かった。土地が事業に使われないまま、水面下で借金の利子が膨張。生じた多額の損失のツケが、後の世代に回されたかたちだ。筆者注、不動産投資ファンドが破たんするのと同じ構図) 

 土地開発公社は自治体の債務保証・損失補償をバックに金融機関から金を借りて公共用地を取得する外郭団体。自治体が借金をして土地を買うよりも手続きが進めやすく、1972年の法律制定後バブル期にかけて盛んに利用された。

 だがバブル崩壊後、こうした外郭団体の事業は各地で行き詰まる。国は2009~16年度に限り、第三セクター等改革推進債(三セク債)で清算などの処理をすることを認めた。(筆者注、はやりのバブル不良債権の「飛ばし」と同じ構図?

 朝日新聞が総務省の内部資料をもとに各自治体にアンケートや電話などで取材したところ、三セク債で土地開発公社の借金を肩代わりして解散や一部清算させた県や市町村が133あった。起債の総額は約6100億円。返済は10年以内が原則だが、岩手県北上市や埼玉県川口市など13自治体は30年で、より長期に影響が及ぶ。三セク債以外に、自治体の財源から支出したり、自治体が貸付金の回収を諦めたりした分も300億円以上あった。(筆者注、損失をこの時点で確定させたということ。。

 公社の借金がここまで膨らんだ要因に、公社が公共用に取得した土地には「かかった費用分の価値がある」と見なせる「簿価」と呼ばれる評価方式がある。(筆者注、この説明は公認会計士の立場からすると“不正確”であると言いたい。簿価で評価してよいためには一定の前提条件が満たされていなければならない。本当の原因は当事者達が“先送り”したことにある。

 例えば10億円で買った土地は、実際にその価値がなくても10億円分の資産とみなせる。土地が塩漬けのまま利子がついても、土地の価値に加算できるので帳簿上は損が出ない=図参照。自治体が利子などの経費筆者注、人件費も含まれている。雇用を確保していた面もあるので一概に悪いとはいえない!?)も含めた額で買い取る約束になっているためだ。だが、計画の甘さなどから、公共事業に使う見通しが立たないまま、利子が膨張(筆者注、現行の企業会計制度では、このような場合利子を原価に算入することはみとめられない。公会計の特殊な処理だったと思われる。)。それでも帳簿上は「損」が出ないため、対処を先送りする温床となってきた(筆者注、よい悪いはともかく、事業目的には最初は意味があり、助けられたひとや潤ったひとがいたことも忘れてはならない。)。公共事業での使用を諦めた時筆者注、先送りしていたときは諦めてはいなかった!?、誰が諦めたと決断したのでしょうか。)、土地は市場価値を踏まえて評価され、簿価との差額が損失として表れる。
 
 朝日新聞が、簿価方式をやめて表面化した損失額を各自治体に尋ねた結果、総額は2700億円を超えた。6千億円超の公金投入額の半分近くだ。実際の価値が簿価の1割未満の事例も(筆者注、土地を売却した方、利子を受け取った方、給料としてもらった方にお金が流れただけであり、地域の経済を潤した補助金としての側面もあることを忘れてはいけない。これが反社事案のように裏の世界に資金が流出していたとすると犯罪になる。この新聞記事だけの情報ではよい悪い(「不正」かどうか)を判断することはできないのでは?)。国は自治体に、簿価方式を改めたうえで三セク債を使うよう事実上求めているが、簿価方式を続ける自治体も多く、損失はより多い可能性がある。

 
 最後は、福岡県での金塊強奪と現金7億円を国外に持ち出そうとした時事です。

(朝日新聞デジタル版 2017年4月22日より)
『金塊取引情報、入手か 買い付け資金狙う? 福岡・強盗』
 
 福岡市中央区の駐車場で20日昼、3億800万円を奪われた強盗致傷事件で、被害に遭った東京都の男性(29)は貴金属関連会社に勤めており、金塊の取引のために現金を引き出したと話していることが操作関係者への取材でわかった。福岡県警は、何者かがこうした情報や現金の動きを把握し、計画的に襲撃したとの見方を強めている。
 
 事前に引き出しの連絡を受けていた銀行側は、現金を確保するために日本銀行から紙幣を調達した。男性は事件以前にも福岡で現金を引き出し、同様の取引をしたことがあったという。(筆者コメント、その筋では金の売買は現金取引が慣行らしいが、取引にかかる税金はどのように扱われていたのか?

 男性は現金を大型のスーツケースに入れ、約100メートル南にある駐車場のレンタカーに戻った直後に男2人に襲われ、ケースごと奪われた。男らが闘争に使った白いワゴン車も
同じ駐車場内に止められており、待ち伏せしていたと県警はみる。

 一方、県警は21日、7億円超の現金を海外へ持ち出そうとした関税法違反(無許可輸出予備など)容疑で韓国籍の男4人を逮捕。(筆者コメント、日本から海外への資金移動は自由化されているが、持ち出した理由が問題だが逮捕されないケースもある。マネーロンダリング、税金回避、取引偽装などの可能性は?)認否を明らかにしていないが、捜査関係者によると、4人は強奪事件への関与を否定しているという。捜査本部は「現時点で両事件に明確な接点はみられない」としている。
 
 生活経済課によると、4人は福岡空港国際線ターミナルで20日午後6時から同11時すぎまでの間に、計7億3500万円の現金を所持していたのに申告せず、無許可で香港国際空港へ出国しようと準備した疑いがある。
 
 関税法違反容疑事件で、「私が(逮捕された)4人に7億円超を運ばせた」と名乗る韓国・ソウルの自動車販売会社の男性社長が(42)が21日、朝日新聞の取材に応じた

 高級輸入車の購入代金として預かったものだと説明し、福岡・天神で20日昼に起きた3億8千万円強奪事件とは「全く関係がない」と否定した。

 社長によると、東京の日本人男性から、伊フェラーリの高級車「ラ・フェラーリ」2台をっ受注した。20日午後5時ごろ、男性が準備した2台分の代金約7億3500万円を福岡空港で受け取り、自社の社員4人に香港まで運ばせようとしていたという。

 「過去にも何回か同様に現金を運ばせたことがあるが、法律に触れるとは思わなかった」と述べた。(筆者注、過去に成功体験があったことから今回も大丈夫だとおもっただけでは、言い訳によく聞くフレーズでは?

 また、福岡・天神で起きた3億8400万円強奪事件については「偶然そういうことが同じ日に起きて、びっくりした。この強奪事件がなかったら、関税法違反で逮捕されるほどでもなかったのでは。大げさになって苦しい」と話した。

 福岡県警は、この社長や、車の購入を依頼したという日本人男性から事情を聴き、取引や現金輸送の経緯を調べる。
 
 
 (西日本新聞2017年5月12日)
 7億円は金塊取引絡みか 車購入に疑問 福岡空港・持ち出し未遂

 現金約7億3500万円を無申告で福岡空港から香港に持ち出そうとし、関税法違反(無許可輸出未遂など)の疑いで韓国人の男4人が先月20日に逮捕された事件。同じ日、福岡市・天神で約3億8400万円が強奪された事件との直接的なつながりは現時点で見つかっていない。男たちは一貫して「高級車の購入資金」と供述しているが、福岡県警は金塊の違法取引巡る資金だった疑いもあるとみて調べている。

 関税法違反事件が発覚したのは強盗事件発生から約5時間半後の午後6時過ぎ。国際線ターミナルの保安検査場で3億7千万円入りのスーツケースを所持する男2人を検査員が発見。さらに2時間半後、出国ロビーで約3億6500万円を所持する別の2人が見つかった。4人はそれぞれスーツケースに1億8千万~1億9千万円を入れていた。

 門司税関福岡空港税関支署によると、4人は19日に韓国・仁川国際空港から関西国際空港に到着。入国目的は「観光」と申告し、1泊2日に滞在予定だった。(筆者注、小さいけど、“嘘”をついている?

 当初、県警は強盗事件との関連を疑ったが、所持していた紙幣から強盗事件の被害者の指紋などが検出されず、4人が事件発生時に空港内にいたことが防犯カメラで確認されたことから、事件と直接的な関係はないとみている。

 だが、「高級車の買い付け資金」とする説明には不可解な点が多い。

 事件後、4人が勤務する会社社長を名乗る男性が来日し、一部メディアに「東京の男性からフェラーリの購入を請け負った。(申告しなかったのは)日本の関税法を知らなかった」と述べた。ところが、この社長は県警に出向いておらず、県警もいまだに接触できていない。「東京の依頼主」とされる人物も特定できていないという。

 4人の一部が、かつて多額の現金を日本から持ち出した際、税関に申告したことも判明。県警は「無申告の違法性を認識していた可能性が高く、供述の信ぴょう性は低い」とみている。組織犯罪に詳しい作家の溝口敦氏も「無申告で現金を持ち出すのは出所が分からないようにするためだ。香港は金塊の取引が盛んで、取引に行こうとしていた可能性もある」と指摘。ある捜査関係者は「密輸した金塊の売買など違法取引を巡る金だった疑いがあり、強盗事件と全く無関係と言い切ることはできない」と話す。

 県警は強盗事件を含む「金塊ビジネス」との関連を捜査の視野に入れている。

 
 公認会計士東葭新事務所 代表 東葭 新
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