【油断めさるな、監査法人 どこに地雷が落ちているかわからないー日産カルロス・ゴーン氏株価連動報酬40億円分を有価証券報告書に記載せず】2018年11月21日
【油断めさるな、監査法人 どこに地雷が落ちているかわからないー日産カルロス・ゴーン氏株価連動報酬40億円分を有価証券報告書に記載せず】2018年11月21日
一昨日の夕方からにわかに世の中の耳目を集めているカリスマ経営者カルロス・ゴーン氏の件について、勝手な推測は慎むべきだが、なかなかに興味深い事象である。少しだけ今書いておきたいことがある。
今朝のネット記事(出典FNN PRIME online、引用部分は「 」内)によれば、「関係者によると、日産は役員報酬として、ストックアプリケーション権(SAR)と呼ばれる、株価に連動した報酬を得る制度を導入していたが、ゴーン容疑者が、およそ40億円分のSARを得ながら、有価証券報告書に記載していなかったことがわかった。」とのことである。しかも、「ゴーン容疑者とともに逮捕された代表取締役のケリー容疑者が、執行役員らに有価証券報告書にうその記載をするよう、指示していたことがわかった。」そうだ。
ここで、会計監査を担当している監査法人の監査について検討してみたい。
まず、あらかじめ断っておくが、金融商品取引法違反に問われている虚偽記載である有価証券報告書の該当箇所は、第1部企業情報 第4提出会社の状況 6.コーポレートガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの状況 ④役員の報酬等 の記載であると理解している。この箇所は監査法人の監査の対象範囲外である。
この対象外であるという形式的理由をもって、監査法人の監査責任は最終的に法的に問われないことになると思われる。個人別役員報酬額の正確性までは監査の精度として必ずしも求められていないことを理由として抗弁するだろう。
しかしながら、以下の観点から公認会計士として、今回のケースがなぜ起き得たのかを考えたい(会社のガバナンスの機能不全、コンプライアンス意識の欠如が最大の理由であることは念のため申し添えておく)。
・コーポレート・ガバナンスの状況に記載される役員報酬は、監査対象である財務諸表に計上されるものであり、間接的に監査対象である損益計算書上の役員報酬額等との整合性を見ること。(不整合の場合、通常はそもそもの費用計上額が誤っている可能性があるので、そのようなことがないことを念のため確かめる習慣がある。)
・役員報酬総額としての計上額の適否は監査意見を表明するに当たって、少なくとも監査の計画フェーズではどのような監査手続きを実施するかについて検討されていたはずであること。その検討の中で役員報酬額に占める割合が格段に高く、高額のゴーン氏の報酬については数年間のうちに個別に検討される機会があったのではないかということ。
・また、現行の監査基準は経営者不正について職業的懐疑心をもって配慮することを監査人に求めていることから、売上の過大計上だけではなく、代表取締役の報酬体系や権限、関連当事者との取引などについては慎重かつ詳細な監査対応が求められていることから、株価連動型インセンティブ受領権その他の報酬スキームについての検討や代表取締役に絡む通常とは異なる取引については監査手続き上の網が張られていたと思われること。
しばしば、有価証券報告書の虚偽記載という事案が起きると監査法人が(虚偽記載の事実を知っていたにも関わらず)見逃した、あるいは極端な場合監査法人が虚偽記載を会社の求めに応じてコンサルしたのではないか、という憶測が出てくる。しかし、私は過去の粉飾事件を通して、また様々な社会環境の変化によりもはやそのようなことは少なくとも大手の監査法人では現在は起きないはずであると信じたい。
では、先の3点の観点からしてどうして虚偽記載に監査法人は気が付かなかったのか。
ひとつは、日産監査チームが日産ほどの会社が意図的に有価証券報告書の虚偽記載をするとは予想していなかった、つまり、職業的懐疑心レベルを落としていたことである。重要性を考えて重要な勘定科目から役員報酬を外していたのかもしれない。
ふたつめは、会社が監査チームに対して隠蔽している場合、虚偽記載の端緒は監査現場スタッフによる地道なひとつひとつの監査手続きの誠実な履行によって見つかる。正直、監査チームとしては反論したい理由がたくさんあるとは思うが、他方で、“あの手続きを
しておけば”とか、“あそこで追加の質問をしてれば”とか、もしかしたら、“監査主査やパートナーには伝えていたのに、、”みたいなことも少なからずあったのではないかと思う。
みっつめは、現場の超繁忙による監査の効率化により、監査ノウハウの伝承や十分な研修や経験を得ていないスタッフが科目担当者として対応したがゆえに、そもそもが虚偽記載が目の前を通っても気が付かなかったのかもしれない。
余談であるが、私が入ったばかりのスタッフのときには、役員報酬は決して担当させてもらえなかった。非常にデリケートな内容であるので、もっぱら関与社員が直接担当されていたことを思い出す。隔世の感である。
最後に、後輩の公認会計士に伝えたい。
どこに地雷が落ちているか分からない。ゆめゆめ油断めさるな。地雷に当たって悲しいのは、くやしいのは何よりも自分自身であるから。
監査はつづくよ、どこまでも!!頑張りましょうね!!!
Always One Step Ahead
CPATOYOSHIOFFICE/公認会計士東葭新事務所
代表 公認会計士・税理士 東葭 新
2018年11月21日
一昨日の夕方からにわかに世の中の耳目を集めているカリスマ経営者カルロス・ゴーン氏の件について、勝手な推測は慎むべきだが、なかなかに興味深い事象である。少しだけ今書いておきたいことがある。
今朝のネット記事(出典FNN PRIME online、引用部分は「 」内)によれば、「関係者によると、日産は役員報酬として、ストックアプリケーション権(SAR)と呼ばれる、株価に連動した報酬を得る制度を導入していたが、ゴーン容疑者が、およそ40億円分のSARを得ながら、有価証券報告書に記載していなかったことがわかった。」とのことである。しかも、「ゴーン容疑者とともに逮捕された代表取締役のケリー容疑者が、執行役員らに有価証券報告書にうその記載をするよう、指示していたことがわかった。」そうだ。
ここで、会計監査を担当している監査法人の監査について検討してみたい。
まず、あらかじめ断っておくが、金融商品取引法違反に問われている虚偽記載である有価証券報告書の該当箇所は、第1部企業情報 第4提出会社の状況 6.コーポレートガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの状況 ④役員の報酬等 の記載であると理解している。この箇所は監査法人の監査の対象範囲外である。
この対象外であるという形式的理由をもって、監査法人の監査責任は最終的に法的に問われないことになると思われる。個人別役員報酬額の正確性までは監査の精度として必ずしも求められていないことを理由として抗弁するだろう。
しかしながら、以下の観点から公認会計士として、今回のケースがなぜ起き得たのかを考えたい(会社のガバナンスの機能不全、コンプライアンス意識の欠如が最大の理由であることは念のため申し添えておく)。
・コーポレート・ガバナンスの状況に記載される役員報酬は、監査対象である財務諸表に計上されるものであり、間接的に監査対象である損益計算書上の役員報酬額等との整合性を見ること。(不整合の場合、通常はそもそもの費用計上額が誤っている可能性があるので、そのようなことがないことを念のため確かめる習慣がある。)
・役員報酬総額としての計上額の適否は監査意見を表明するに当たって、少なくとも監査の計画フェーズではどのような監査手続きを実施するかについて検討されていたはずであること。その検討の中で役員報酬額に占める割合が格段に高く、高額のゴーン氏の報酬については数年間のうちに個別に検討される機会があったのではないかということ。
・また、現行の監査基準は経営者不正について職業的懐疑心をもって配慮することを監査人に求めていることから、売上の過大計上だけではなく、代表取締役の報酬体系や権限、関連当事者との取引などについては慎重かつ詳細な監査対応が求められていることから、株価連動型インセンティブ受領権その他の報酬スキームについての検討や代表取締役に絡む通常とは異なる取引については監査手続き上の網が張られていたと思われること。
しばしば、有価証券報告書の虚偽記載という事案が起きると監査法人が(虚偽記載の事実を知っていたにも関わらず)見逃した、あるいは極端な場合監査法人が虚偽記載を会社の求めに応じてコンサルしたのではないか、という憶測が出てくる。しかし、私は過去の粉飾事件を通して、また様々な社会環境の変化によりもはやそのようなことは少なくとも大手の監査法人では現在は起きないはずであると信じたい。
では、先の3点の観点からしてどうして虚偽記載に監査法人は気が付かなかったのか。
ひとつは、日産監査チームが日産ほどの会社が意図的に有価証券報告書の虚偽記載をするとは予想していなかった、つまり、職業的懐疑心レベルを落としていたことである。重要性を考えて重要な勘定科目から役員報酬を外していたのかもしれない。
ふたつめは、会社が監査チームに対して隠蔽している場合、虚偽記載の端緒は監査現場スタッフによる地道なひとつひとつの監査手続きの誠実な履行によって見つかる。正直、監査チームとしては反論したい理由がたくさんあるとは思うが、他方で、“あの手続きを
しておけば”とか、“あそこで追加の質問をしてれば”とか、もしかしたら、“監査主査やパートナーには伝えていたのに、、”みたいなことも少なからずあったのではないかと思う。
みっつめは、現場の超繁忙による監査の効率化により、監査ノウハウの伝承や十分な研修や経験を得ていないスタッフが科目担当者として対応したがゆえに、そもそもが虚偽記載が目の前を通っても気が付かなかったのかもしれない。
余談であるが、私が入ったばかりのスタッフのときには、役員報酬は決して担当させてもらえなかった。非常にデリケートな内容であるので、もっぱら関与社員が直接担当されていたことを思い出す。隔世の感である。
最後に、後輩の公認会計士に伝えたい。
どこに地雷が落ちているか分からない。ゆめゆめ油断めさるな。地雷に当たって悲しいのは、くやしいのは何よりも自分自身であるから。
監査はつづくよ、どこまでも!!頑張りましょうね!!!
Always One Step Ahead
CPATOYOSHIOFFICE/公認会計士東葭新事務所
代表 公認会計士・税理士 東葭 新
2018年11月21日
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