カルロス・ゴーン氏の役員報酬虚偽記載はどのように訂正されるべきか。
【カルロス・ゴーン氏の役員報酬虚偽記載はどのように訂正されるべきかー私論】
さて、公認会計士である私としては、カルロス・ゴーン氏の今後よりも、今回の虚偽記載が有価証券報告書の、特に過年度公表財務諸表の訂正につながるのかどうか、つながるとすればどのように訂正されるのだろうか、ということが大変に気になる。余計な脱線をしながらであるが、勝手ながらまとめてみた。
虚偽記載の金額としては5年間で50億円ほどであるので、金額として訂正が必要なほど重大かというと日産ほどの規模の会社になると、重大ではない、という判断もありうる。
しかし、質的な要因からみてみると、経営者に関わる不正であり、虚偽の内容及びその理由が証券市場を愚弄したものといえ、質(たち)が悪い。したがって、金融庁及び証券取引所は必ず訂正すること求めると考える。監査法人も訂正監査の準備に忙しくなっていることでしょう。火事場の焼け太りとは言い過ぎかもしれないが、、、
それはさておき、そうであるならば、いま、当該虚偽記載はどのように取引を擬制して、どのように会計処理されたのかを推測することは、公認会計士及び会計と経理に携わるすべてのひとにとってよい頭の体操になるのではないかと考える。そして、どのように取引を擬制したかがわかれば、自ずと訂正の内容がわかるのではないか。
まず、役員報酬額のうち株価連動部分の報酬を減額したことは、前回の私のブログでふれたところである。ということは、簿記的には、借方に計上されるべき40億、ないし50億という金額はどこへいったのだろうか?
朝日新聞デジタル版2018年11月21日5時によれば(引用は「 」内)、「日産は約50億円の差額分について、ゴーン会長が会社の投資資金や経費を私的な目的で使ったとみている」とある。このような記載ぶりだと、さもゴーン氏が勝手に日産という会社所有のお金を使い込んでしまったかのように思われるが、そのようなことではなかったと考える。
当時としては、役員報酬額を少なく記載したいゴーン氏の意志があり、加えて、もらえるお金はしっかりと受け取るぞという、さらに強い意志をもっているゴーン氏の無理難題に応えるため、不動産などへの固定資産への投資や、交際費などの役員報酬とは別の費用科目だと表面的に言い逃れできるものを介在させたということを意味していると解する。
これが、「ケリー代表取締役が取引を主導し、執行役員らに事務的な処理を指示していた」ことであろう。いち取締役の着服ではなく、日産という会社が明らかに意図的に取引の実態を隠す粉飾会計を行っていたということであり、単に有価証券報告書に記載すべき報酬額を減額して記載したというだけではないということである。立派な粉飾事案である。
会社も司法取引が済んでいるとはいえ、自らのゴーン氏に対して“忖度”してしまった落度を隠そうとかなり苦しい説明を強いられている印象だ。
このため、ゴーン氏からすれば、差額を私的に流用したというよりは、自分の役員報酬を不動産という現物や自由に自分のために使える渡切の交際費枠をもっただけという感覚だろう。個人的には、逮捕後の認否は不明とのことだが、検察とゴーン氏との間で認識に相違が出ていて、これが将来の処分の行方に影響するのではないかと勝手に想像する。(きっと、ゴーン氏が日本語に堪能であれば、“国策捜査だ!”と叫んで、マクロンさんに泣きついているかもしれない。)
少し脱線したが、日産の経理処理が誤っていることには変わらない。
だから、「日産はこうした住宅に住むための費用を有価証券報告書に記載すべき報酬ととらえ、虚偽表示にあたると判断。検察当局に情報を提供したという。」ことになったのだろう。少々細かい話になるが、現物支給などはいわゆるフリンジベネフィットと呼ばれる。税務上特に問題となる。フリンジベネフィットと呼ばれる金銭以外の特別の便益を金額的に算定することは言葉でいうほど簡単ではない。役員報酬認定されるかどうかは高度な判断と知識が必要になる。日産は、元々役員報酬で払うお金で海外の住宅などを購入したからこそ、はっきりと「有価証券報告書に記載すべき報酬」と言い切ったと思う。そうでなければ、ゴーン氏は検察と日産に対して徹底的に対抗するだろう。また、検察が、ゴーン氏の逮捕にあたって、なぜ金融商品取引法違反を持ち出しのかについても納得できる。
したがって、訂正仕訳は次のようになると思われる。(本来は、各会計年度毎に仕訳されるが、ここでは全期間一括で記載していることをご容赦ください)
借方)役員報酬 50億円 貸方)土地・建物 ××億円
交際費 ××
旅費交通費 ××
雑費等 ××
この場合、海外の子会社を利用してブラジル・リオデジャネイロやレバノン・ベイルートなどに購入した住宅の所有権はゴーン氏に最終的に移されるのかは興味がある。
今回のこの訂正をきちんとしようとすると、様々な法律上の手当や証憑の入手などが必要となると感じる。さらに、ゴーン氏の個人所得税の修正も必要となる。
日産の法人税等の修正については無視させていただきたい。
最後に、日産はこの5年間、ゴーン氏の役員報酬を不適切会計処理することによって架空利益を計上していた、つまり役員報酬の一部を将来に繰り延べていたということを再度記しておきたい。誰がこのようなスキームを考えたのだろうか??
世の中には悪知恵が働くひとがいるということである。油断がならない。
なお、東京地検特捜部は法人としての日産を立件する方向とのことである。
Always One Step Ahead
CPATOYOSHIOFFICE
公認会計士東葭新事務所
代表 公認会計士 東葭 新
さて、公認会計士である私としては、カルロス・ゴーン氏の今後よりも、今回の虚偽記載が有価証券報告書の、特に過年度公表財務諸表の訂正につながるのかどうか、つながるとすればどのように訂正されるのだろうか、ということが大変に気になる。余計な脱線をしながらであるが、勝手ながらまとめてみた。
虚偽記載の金額としては5年間で50億円ほどであるので、金額として訂正が必要なほど重大かというと日産ほどの規模の会社になると、重大ではない、という判断もありうる。
しかし、質的な要因からみてみると、経営者に関わる不正であり、虚偽の内容及びその理由が証券市場を愚弄したものといえ、質(たち)が悪い。したがって、金融庁及び証券取引所は必ず訂正すること求めると考える。監査法人も訂正監査の準備に忙しくなっていることでしょう。火事場の焼け太りとは言い過ぎかもしれないが、、、
それはさておき、そうであるならば、いま、当該虚偽記載はどのように取引を擬制して、どのように会計処理されたのかを推測することは、公認会計士及び会計と経理に携わるすべてのひとにとってよい頭の体操になるのではないかと考える。そして、どのように取引を擬制したかがわかれば、自ずと訂正の内容がわかるのではないか。
まず、役員報酬額のうち株価連動部分の報酬を減額したことは、前回の私のブログでふれたところである。ということは、簿記的には、借方に計上されるべき40億、ないし50億という金額はどこへいったのだろうか?
朝日新聞デジタル版2018年11月21日5時によれば(引用は「 」内)、「日産は約50億円の差額分について、ゴーン会長が会社の投資資金や経費を私的な目的で使ったとみている」とある。このような記載ぶりだと、さもゴーン氏が勝手に日産という会社所有のお金を使い込んでしまったかのように思われるが、そのようなことではなかったと考える。
当時としては、役員報酬額を少なく記載したいゴーン氏の意志があり、加えて、もらえるお金はしっかりと受け取るぞという、さらに強い意志をもっているゴーン氏の無理難題に応えるため、不動産などへの固定資産への投資や、交際費などの役員報酬とは別の費用科目だと表面的に言い逃れできるものを介在させたということを意味していると解する。
これが、「ケリー代表取締役が取引を主導し、執行役員らに事務的な処理を指示していた」ことであろう。いち取締役の着服ではなく、日産という会社が明らかに意図的に取引の実態を隠す粉飾会計を行っていたということであり、単に有価証券報告書に記載すべき報酬額を減額して記載したというだけではないということである。立派な粉飾事案である。
会社も司法取引が済んでいるとはいえ、自らのゴーン氏に対して“忖度”してしまった落度を隠そうとかなり苦しい説明を強いられている印象だ。
このため、ゴーン氏からすれば、差額を私的に流用したというよりは、自分の役員報酬を不動産という現物や自由に自分のために使える渡切の交際費枠をもっただけという感覚だろう。個人的には、逮捕後の認否は不明とのことだが、検察とゴーン氏との間で認識に相違が出ていて、これが将来の処分の行方に影響するのではないかと勝手に想像する。(きっと、ゴーン氏が日本語に堪能であれば、“国策捜査だ!”と叫んで、マクロンさんに泣きついているかもしれない。)
少し脱線したが、日産の経理処理が誤っていることには変わらない。
だから、「日産はこうした住宅に住むための費用を有価証券報告書に記載すべき報酬ととらえ、虚偽表示にあたると判断。検察当局に情報を提供したという。」ことになったのだろう。少々細かい話になるが、現物支給などはいわゆるフリンジベネフィットと呼ばれる。税務上特に問題となる。フリンジベネフィットと呼ばれる金銭以外の特別の便益を金額的に算定することは言葉でいうほど簡単ではない。役員報酬認定されるかどうかは高度な判断と知識が必要になる。日産は、元々役員報酬で払うお金で海外の住宅などを購入したからこそ、はっきりと「有価証券報告書に記載すべき報酬」と言い切ったと思う。そうでなければ、ゴーン氏は検察と日産に対して徹底的に対抗するだろう。また、検察が、ゴーン氏の逮捕にあたって、なぜ金融商品取引法違反を持ち出しのかについても納得できる。
したがって、訂正仕訳は次のようになると思われる。(本来は、各会計年度毎に仕訳されるが、ここでは全期間一括で記載していることをご容赦ください)
借方)役員報酬 50億円 貸方)土地・建物 ××億円
交際費 ××
旅費交通費 ××
雑費等 ××
この場合、海外の子会社を利用してブラジル・リオデジャネイロやレバノン・ベイルートなどに購入した住宅の所有権はゴーン氏に最終的に移されるのかは興味がある。
今回のこの訂正をきちんとしようとすると、様々な法律上の手当や証憑の入手などが必要となると感じる。さらに、ゴーン氏の個人所得税の修正も必要となる。
日産の法人税等の修正については無視させていただきたい。
最後に、日産はこの5年間、ゴーン氏の役員報酬を不適切会計処理することによって架空利益を計上していた、つまり役員報酬の一部を将来に繰り延べていたということを再度記しておきたい。誰がこのようなスキームを考えたのだろうか??
世の中には悪知恵が働くひとがいるということである。油断がならない。
なお、東京地検特捜部は法人としての日産を立件する方向とのことである。
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