東芝決算に関する麻生太郎財務・金融相の発言について感じたこと
日本経済新聞の記事によれば、『麻生太郎金融相は12日(4月12日)の衆院財務金融委員会で、東芝(6502)が11日(4月11日)に2016年4~12月期決算を監査法人の適正意見なしで発表したことに関連し「企業と監査法人においては意見の不表明に至った経緯、理由を投資家に対して説明責任を果たすようにしっかり対応してもらうことは重要だ」と述べた。16年4月~9月決算までは適正意見を出していたことから、監査法人の監査計画に対しても「よく見ておかなければいけない」との考えを示した。』とあります。
まだ四半期報告に係るものではありますが、監査法人が「不表明」という結論を、しかも東芝のような日本財界を代表するグローバル製造業の財務報告に対して出したことは、日本の財務報告制度と監査制度に対して非常に大きなインパクトのある事例となりました。この後、会社法に基づく本決算の財務報告と監査意見、そして金融商品取引法にもとづく財務報告とそれに対する監査意見という年度決算・財務報告の大イベントがあります。もし、今回の2016年4~12月期決算と同じ状況になった場合、とても難しい問題を社会制度としての財務報告・監査制度に及ぼすと危惧しています。
新聞報道でも記載に工夫がされているように、「不表明」は意見を表明しないことであり、企業が開示する財務報告書が適正かどうかの意見を表明しないことから、投資家にとってアラートにはなりますが、不適正であればどこが適正ではないかが示されますが、不表明は投資家にとって役に立たないものと監査論では考えられてきました。
会社法に基づく計算書類等の財務報告であれば、監査法人が適正意見を付さない場合、東芝であれば監査委員会が監査法人に代わって会計監査をやり直したり、あるいは追加の手続きを実施したうえで株主に説明と報告をすることになるでしょう。監査委員会に実行可能なリソースがあるかはわかりません。
金融商品取引法に基づく財務報告であれば、監査法人と東芝の業務執行を担当する取締役及びガバナンスを担当する監査委員会とで両者の溝を埋める努力をし、必要であれば2017年3月期に係る各四半期報告書の訂正報告なども行ったうえで年度の財務報告をすることが求められるでしょう。ただ、このことは時間がとれだけかかるかというところについては何とも言えません。重要性がなければ、時間切れとか見切りで財務報告も可能な時代も過去あったかもしれませんが、今回はそのようなことは制度としても社会からも許されませんので、何が投資家保護になるのか、という観点から日本の財務報告制度や監査制度を見直す動きが出てくる可能性もあると感じています。(そもそも上場維持の判断も大きな問題ですね。)
投資家保護は、企業による財務諸表を誠実に作成して投資家の負託に応えることと、監査法人により企業が作成した財務報告が適正であることを証明するための必要十分な手続きを入手することを通じて財務報告の内容を保証するというそれぞれの責任(二重責任の原則)を果たすことにより達成されることは今更いうまでもありません。ご担当される東芝の関係者、特に監査委員と監査法人の方々のご苦労は測り知れません。監査業界のためにどうか乗り切っていただきたいと心から応援しています。
最後に、麻生大臣の12日の発言では、監査法人が意見不表明の原因説明をすることが必要であるとのお言葉あったようですが、監査法人は守秘義務等プロフェッショナルとしての義務が東芝に対してありますので、投資家や社会一般に対して直接原因説明を行うということはできないと思います。東芝でいえば監査委員が監査法人と協議した上で、監査法人の意見、対応、そしてこれに対する東芝の見解を主に株主と上場取引所に対して監査委員会からまとめて行われるべきと思います。監査法人が、例えば、これこれこういう理由で東芝の内部統制がああでこうで、〇〇に関する資料が入手できず十分な説明もないので、証拠が不十分で、意見を不表明、、みたいなことを説明することは法律や契約の立て付け的にも無理があると考えます。他方、監督官庁である金融庁への説明は監査法人に対して求められると思います。金融庁から社会に説明があるかもしれません。東芝を上場廃止にすることは株式市場に与える影響や年金資産の運用、東芝の半導体会社分割などへも影響があり、政治的に高度の判断が求められるものと推察しています。金融庁も大変ですね。
これからの動きを注視していきたいと思います。
公認会計士東葭新事務所 代表 東葭 新
まだ四半期報告に係るものではありますが、監査法人が「不表明」という結論を、しかも東芝のような日本財界を代表するグローバル製造業の財務報告に対して出したことは、日本の財務報告制度と監査制度に対して非常に大きなインパクトのある事例となりました。この後、会社法に基づく本決算の財務報告と監査意見、そして金融商品取引法にもとづく財務報告とそれに対する監査意見という年度決算・財務報告の大イベントがあります。もし、今回の2016年4~12月期決算と同じ状況になった場合、とても難しい問題を社会制度としての財務報告・監査制度に及ぼすと危惧しています。
新聞報道でも記載に工夫がされているように、「不表明」は意見を表明しないことであり、企業が開示する財務報告書が適正かどうかの意見を表明しないことから、投資家にとってアラートにはなりますが、不適正であればどこが適正ではないかが示されますが、不表明は投資家にとって役に立たないものと監査論では考えられてきました。
会社法に基づく計算書類等の財務報告であれば、監査法人が適正意見を付さない場合、東芝であれば監査委員会が監査法人に代わって会計監査をやり直したり、あるいは追加の手続きを実施したうえで株主に説明と報告をすることになるでしょう。監査委員会に実行可能なリソースがあるかはわかりません。
金融商品取引法に基づく財務報告であれば、監査法人と東芝の業務執行を担当する取締役及びガバナンスを担当する監査委員会とで両者の溝を埋める努力をし、必要であれば2017年3月期に係る各四半期報告書の訂正報告なども行ったうえで年度の財務報告をすることが求められるでしょう。ただ、このことは時間がとれだけかかるかというところについては何とも言えません。重要性がなければ、時間切れとか見切りで財務報告も可能な時代も過去あったかもしれませんが、今回はそのようなことは制度としても社会からも許されませんので、何が投資家保護になるのか、という観点から日本の財務報告制度や監査制度を見直す動きが出てくる可能性もあると感じています。(そもそも上場維持の判断も大きな問題ですね。)
投資家保護は、企業による財務諸表を誠実に作成して投資家の負託に応えることと、監査法人により企業が作成した財務報告が適正であることを証明するための必要十分な手続きを入手することを通じて財務報告の内容を保証するというそれぞれの責任(二重責任の原則)を果たすことにより達成されることは今更いうまでもありません。ご担当される東芝の関係者、特に監査委員と監査法人の方々のご苦労は測り知れません。監査業界のためにどうか乗り切っていただきたいと心から応援しています。
最後に、麻生大臣の12日の発言では、監査法人が意見不表明の原因説明をすることが必要であるとのお言葉あったようですが、監査法人は守秘義務等プロフェッショナルとしての義務が東芝に対してありますので、投資家や社会一般に対して直接原因説明を行うということはできないと思います。東芝でいえば監査委員が監査法人と協議した上で、監査法人の意見、対応、そしてこれに対する東芝の見解を主に株主と上場取引所に対して監査委員会からまとめて行われるべきと思います。監査法人が、例えば、これこれこういう理由で東芝の内部統制がああでこうで、〇〇に関する資料が入手できず十分な説明もないので、証拠が不十分で、意見を不表明、、みたいなことを説明することは法律や契約の立て付け的にも無理があると考えます。他方、監督官庁である金融庁への説明は監査法人に対して求められると思います。金融庁から社会に説明があるかもしれません。東芝を上場廃止にすることは株式市場に与える影響や年金資産の運用、東芝の半導体会社分割などへも影響があり、政治的に高度の判断が求められるものと推察しています。金融庁も大変ですね。
これからの動きを注視していきたいと思います。
公認会計士東葭新事務所 代表 東葭 新
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